1 お詫び
「淳Think改めスサノオ通信」発刊当初から「錦織淳の役に立つビジネスコーナー」を発信するとお約束しながら,いつまで待っても出てこないではないかとお叱りを受けている。
本体の方さえままにならないのに,「ビジネスコーナー」まではなかなか手が廻らないというのが本当のところである。
しかし,いつまでも“口先だけの,約束不履行”と非難されるのもたまらないので,とりあえず,極めて安易ながら,本号のような形式で,とにもかくにも第1回を発信することにした。
2 当初構想していた企画
このコーナーでは,次の二つを考えていた。
(1)契約書の作り方
企業法務に携わる人,事業の上でこの問題にいつも頭を悩ませている方々や,後輩弁護士たちはもちろん,一般の人々にもわかり易い“役に立つシリーズ ”ものを考えていた。
このことについては,私の長い弁護士経験に基く,私の独創的な考えやアイデアがある。
いずれ連載を開始したいと思っている。
(2)“錦織峰子の大粒の涙”とともに実現した日本の司法改革
今日のロースクール制度の新規導入や司法試験制度の大幅改革のことである。法曹3者(裁判所,検察庁,弁護士会)や大学法学教育関係者はもちろん,一般の方々にも知っていただきたい問題である。
これは,スサノオ通信第1号発刊当初から“予告”していたものである。
しかし,余りに衝撃的な内容なので,これを“発表”することに,今でもいささかの逡巡や躊躇がある。
また,私と故竹下登氏陣営との衆議員選挙をめぐる,文字通り“血みどろ”の激闘から説き起こさないと理解していただけないものである。
さて,どうしたものか。
3 今号から,とにもかくにもこのコーナーを開始しようと思い立ったいきさつ
(1)法曹界で深く静かに潜行する“人的資源の劣化”
ここのところ,しばしばこのことを深く痛感している。“日本の危機”でさえあると思う。
とにかく“知の力”が落ちている。小手先だけ,上辺だけで物事を考えたり処理したり,やたらに発達したマニュアルに全体重をかける人々が,中堅以下にどんどん増えている。
物事を体系的に見たり,歴史的に洞察する力が明らかに衰えている。
私の東大理科1類時代の同級生原島博教授が随分前から「HC塾」というのを開催している。ときとして壮大なテーマをおりまぜながら,「錦織淳の文明史論」にも共鳴する様々なテーマを取り扱う素晴らしい塾である。最新回のテーマは,「俯瞰(ふかん)すること」「俯瞰知」ということである。彼なりにそのことを説く必要性を痛感しているのではなかろうか。
そうすると,この問題は当然のことながら,法曹界だけに留まるものではないことになる。
(2)別添ファイルで紹介する事件
別添ファイルで紹介する事件は,いきなり難度の高い案件で恐縮だが,企業買収(M&A)にかかわる案件で,ごく最近私が手掛けたものである。
日本のある小さな証券会社の支配権の争奪戦が,企業買収をめぐって展開された事案である。関係する個人は,外国人ないしそれに準ずる人々ばかりであり,私の依頼者はいずれも海外在住のイスラエル人とイタリア人である。
ここでは,“友好的買収”としてなされた第三者割当増資が平成26年に新設された会社法206条の2に違反するかどうかが問題となった,
この事件の原告側代理人には,私の盟友である津留崎裕弁護士(私の後輩にして,海事法の我が国第一人者)に加わってもらった。
一審では当方の原則的勝訴であったが,控訴審判決言渡直前に,和解が成立した。私個人としては,是非とも最高裁の判断(判決)を仰ぎたいところであったが,その機会は逸してしまった。
(3)法曹関係者,企業法務関係者に読んでもらいたい二つの準備書面
この判決自体は「ジュリスト」(2021年8月号2頁所収)に登載され,またジュリストの「令和3年度重要判例解説」に紹介されている。
私が読んでいただきたいのは,私どもが作成した二つの準備書面(抄)である。
この事件では,相手方から,二人の有力な会社法学者の方の作成にかかる鑑定意見書が都合3通提出された。この二つの準備書面はそれらに対する反論として作成されたものである(ちなみに,私どもはこのような鑑定書の作成は依頼していない。)。
この論争を通じて痛感したのは,日本の法曹界,法学界において,判例解釈が過度に“マニュアル化”しているのではないかという危機感である。
判例が金科玉条の如く“一人歩き界しており,その根拠やバックグラウンドをとことん追求するという信念や気概が欠けているのではないかという危機感である。このことについては,上記原告準備書面7の6頁以下で少し言及しているので是非ともお読みいただきたい。
この指摘に思いあたるところがある方は(否!思いあたっていただきたい!)には,この事件は格好の素材になるはずである。