※本日の話の副題一「知識人の役割」について一
序 私と中東・アラブとのかかわり
中東・アラブは,今日地球を圧倒的に支配する「西洋(「西欧」ではない!)文明」の発祥の地である。
その文明の源流を訪(尋)ねることなくして、この文明の未来を的確に予測することはできない。
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私が中東・アラブ世界を訪(尋)ねて体得・感知したこと
=西洋文明の本質とは何か
=西洋文明と宗教(-神教)との関連
cf1旧約聖書の原典の一部は古代メソポタミア文明の粘土板文字にあり。
cf2ユダヤ教-キリスト教-イスラム教(-神教)は同じ経典をいただく兄弟(偶像崇拝を否定するイスラム教は唯一神の絶対性をさらに徹底させたもの)
※出会いの小さなきっかけ(丸紅・中近東課,National Bank of Abu Dhabi)
※拙著「神々の終焉」について―「ラデイカル・ヒストリー」の著者山内昌之氏のコメント―
第1 過去を分析し未来を予測するためには何が大切か
座標軸・時間軸の必要性+世界観(文明観)の必要性
- 小さな物差し(メジャー)をあてても、長く大きなものは測れない
- 現代の世界は、あらゆる分野で、狭くかつ近視眼的な視点からのみ物事を語るテクノクラートが我がもの顔に跋扈している(木を見て森をみざるの弊/自分の持っている“分析の道具”の妥当する領域・範囲に無自覚)。
- 専門家(プロ)とはどういう存在か。
第2 “現代の混迷”を読み解く(その1)
―テロリズムの拡散と世界の安全保障の観点から―
1 古典的安全保障論
国家間の安全保障
ex1キッシンジャー流(トランプ政権の中核に彼の弟子がいる)のバランス・オブ・パワー論
ex2「だれがサダムを育てたか」という著書(副題-「アメリカ兵器密売の10年」アラン・フリードマン著1994年NHK出版より邦訳版)
ex3「誰がタリバンを育てたか」という著書(マイケル・グリフィン,著2001年 大月書房より邦訳版)
ex4いわゆる“抑止論”
2 核兵器の登場の意味
拙著「神々の終焉」では,“人類の直面する三つの危機”のうちの一つ。
国家間の軍事的バランス・オブ・パワー論のぎりぎりの限界と危うさ。
3 テロリズムの拡大・拡散の意味
- 国境を越え、国家と対立し、市民社会深くへ浸透(なお、ISと国家の関係については説明が必要)。
- 正規軍と正規軍の戦闘ではない。
- 古典的安全保障論では到底対処できない。
- アルカイダとISは何故に力を持つに至ったか。
第3 テロリズムの拡大·拡散を読み解くための前提的知識
1 中東ないしイスラム世界とのかかわりの違い
- ヨーロッパ―切っても切れぬ深い関係。日本と北東アジア・東南アジアとの槻係にやや似ているところがある。
- U.S.A-第二次大戦後,欧に代わって君臨(ソ連邦の退場。但し,ロシアの再台頭)
- 日本-関係が希薄(と思っている)。石油産出国,工業製品の市場としてのみ理解。
影響を受ける度合いも三者で異なる。
2 イスラム原理主義ないしイスラムヘの回帰はなぜ生まれたのか
(1)繁栄・栄光から敗北・挫折ヘ
①世界(四大)文明発祥の地
②イスラム帝国(サラセン帝国)の繁栄
- 西はスペイン,モロッコからはインドまで、十数世紀の長きにわたって巨大なイスラム文化圏を形成した。イスラム教とこれら地域の経済的・文化的繁栄はセットで拡大・存続した。
- トルコ=イスラム文化(オスマントルコ帝国)、イラン=イスラム文化(ペルシャ帝国)、インド=イスラム文化(ムガル帝国)を中心に、マグレプ諸国・中央アジア・東南アジアヘのイスラムの伝搬(今日のイスラム世界の版図の形成)
- ヨーロッパは後発
③オスマントルコ帝国の繁栄
東ローマ帝国を継承したビザンティン帝国を滅ぼし,ギリシャ・バルカン地域からアルジェ、エジプト、イラクに至るまで広大な地域を支配・繁栄
④第一次、第二次世界大戦を通じてのオスマントルコ帝国の最終的崩壊と中東・アラブ世界の分断(1916年サイクス・ピコ協定)
後発ヨーロッパ勢力による最終的追い落とし
⑤イスラエル国家誕生の意味
⑥四次にわたる中東戦争のほとんどで敗北
(2)アラブ民族主義、世俗主義の挫折
アラブ世界の盟主ナセルの敗北と挫折
cf.バース党政権の位屈付け
(3)パレスチナ問題の未解決・長期化、イスラエル入植地の増大と“アラブの連帯”の無力化、中東・アラブ世界の分裂
ここでは二つのキーワードがポイント
①パレスチナとの連帯は中東・アラブ・イスラムの共通のスローガン
②パレスチナは中東の火薬庫,中東は世界の火薬庫
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パレスチナ問題の未解決・長期化(全く解決の展望がない)と中東・アラブ・イスラムの分裂・分断の固定化(1978年キャンプ・デーピッド合意、1993年オスロ合意はいずれも挫折)
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その反動エネルギーは決して消えない(ときとして“負のエネルギー”の巨大な源泉となって燃えさかる)
(4)U.S.Aの果たした役割
(5)イスラム原理主義ないしイスラムヘの回帰の伏線ないし潮流
①サラフィー主義
②サウディアラビアにおけるワッハーブ主義
③ムスリム同胞団
④1979年ホメイニ革命(イラン)
⑤ソ連のアフガン侵攻(1979年~1988年)からアフガン内戦を経て、タリバン政権の誕生
3 軍事的対決構造の変化
(1)第四次中東戦争まで
- イスラエル対アラブ諸国(ないしイスラム)連合の対決
- 正規軍対正規軍の対決
(2)インティファーダ
- 1987年12月6日第一次インティファーダ発生
- 2000年9月28日第二次インティファーダ発生
- 民衆の(対イスラエル)蜂起
- 自爆テロ
(3)イラン・イラク戦争(1980年~1988年)
- 「対イスラエル」との構造が崩れる
- この点の評価はもう少し検討が必要
(4)アフガン戦争
- ムスリム同胞団の参戦
- 世界中からイスラム義勇兵が参戦
- アルカイダの大躍進
- タリバンとの結合
(5)1992年アルジェリア総選挙でイスラム原理主義政党が勝利するも、軍事クーデターで挫折
- これには若干の注釈が必要
(6)軍事的対決構造の変化
第4 イラク開戦の結果とその予測可能性
1 二つ目の火薬庫となることは必至であった
- パレスチナ問題解決の潜在的重要性を見抜けない愚かさ。
2 イスラム原理主義の台頭やイスラムヘの回帰現象の本質的原因に対する無知・無理解
3 軍事的対決構造の本質的変化も見抜けない愚かさ
- 古典的安全保障論の限界への無自覚
4 今や文明の危機-人類の英知が問われている
- 問題は,テロリズム対策や安全保障の問題にとどまらず,市民社会の分裂と分断が進行し,「怒り、不信感の蔓延」「理性や対話に対する信仰が薄れ,暴力への抵抗感が鈍磨していく」(淳Think)という危機的状況。
5 <参考>イギリス政府の設置した独立委員会の報告書
なお、イギリスのプラウン首相(当時)によって任命されたChilcot Committeが2016年7月6日に発表したThe Iraq Inquiryの中で
「The failure to plan or prepare for known risks」
の項でこれを論じている。known risksというのが頂要。
第5 危機(の原因)に無自覚なまま益々混迷を深める世界
1 イラク開戦の皮肉な結果
何もかもU.S.A(ブッシュ・ジュニアら)の望むところと正反対の結果となった。
(1)テロの拡散
(2)社会の分裂・不安・混迷
(3)世俗主義政権の崩壊とイスラム教政治勢力の台頭・伸長
(4)イランないしシーア派の力の増大
2 イラク開戦の総括のないまま三つ目、四つ目の火薬庫を創りだす
シリアヘの介入の愚かさ。ISILの台頭。
3 アラブの春とは何であった(ある)か
- 2010年チュニジアのジャスミン革命に端を発し,エジプト革命,リビア内戦(2011年)イエメン内戦(2011年)への連鎖
- 世俗主義政権を崩壊させ、代わってイスラム政治勢力が台頭・伸長し、かつ内戦状態
- “アラブの春’'は“アラブの嵐”(私の友人の言菓)
4 現代(世界)政治の根本的欠陥
正しい座標軸や世界観を持たない政治家の「決断と実行」は,自国民のみならず世界人民を取り返しのつかない不幸に追いやる。
第6 “現代の混迷”を読み解く(その2)
-今後の人類史を展望する―
1 世界観喪失の時代
時代認識の重要性
- 西洋文明と一神教はセット
- マルクス主義の誕生と終焉の意味
- 世界観喪失の時代の到来=人類の剥き出しの欲望をコントロールできなくなった時代の到来
西洋文明はがん細胞の如きものなり=繁栄の極致に達したところを食いつぶしながら次から次へと“転移”していく=Pax Americanaの先が読めない(がんの転移先がない!)ことの恐ろしさ
2 ソビエト連邦の崩壊と経済における「競争原理至上主義」(グローバリズムはその結果としての現象形態)の進展・挫折が意味するもの
- 体制間競争の終焉
- 世界単一市場の実現と世界における“フロンティア”の消滅
→「競争原理至上主義」(グローバリズム)の前に立ちはだかるのは己(競争原理至上主義、グローバリズム)のみ
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そして、あらゆる意味・分野での“フロンティア”の消滅
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新たな世界観の確立なくして人類が一歩も進めなくなる時代がやってきた。
3 地球の有限性・資源の有限性と“現代のリヴァイアサン”としての科学技術発展の相克
文明の直面するもう一つの危機
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新たな産業論確立の必要性
第7 日本人にすでに与えられていた教訓、今与えられている教訓
- 水俣病の教訓
- 9.11と3.11の共通性